国連事務総長「日本の対応に進展」 慰安婦問題巡り被害者に
【浦項(ポハン)=小倉健太郎】旧日本軍の従軍慰安婦被害者を支援する市民団体、韓国挺身隊問題対策協議会は12日、元慰安婦が11日に国連の潘基文(バン・キムン)事務総長と面会した際のやりとりを公表した。潘氏は昨年末の慰安婦問題を巡る日韓合意に関連して、日本の対応は自身が韓国外務省に勤めていた当時に比べ「進展があった」との判断を示した。
潘氏が昨年末に出した日韓合意を歓迎する声明には不満を表明する元慰安婦もいる。潘氏は11日に「国連は解決への過程で出される小さな合意でも歓迎、奨励している」と述べた。
2016.3.12 10:33 共同=産経
潘氏、元慰安婦に苦しい釈明 日韓合意歓迎は「内容を歓迎したものでない」? 初の会談
国連の潘基文事務総長は11日、国連本部を訪問した韓国人の元従軍慰安婦吉元玉さん(87)や支援者と会談し「吉さんが受けた苦しみや痛みに同情する。被害者の声に耳を傾けるのが重要だ」と述べた。事務総長報道官によると、韓国人の潘氏が2007年に現職に就いて以来、元慰安婦と面会するのは初めて。 潘氏は会談で、慰安婦問題の日韓合意が誠実に履行されることに期待を示し、「包括的な解決に向けて関係者が対話を続けることを求めている」と語った。
会談に同席した通訳によると、吉さんと支援者は、慰安婦問題の日韓合意を歓迎する声明を出した潘氏に不満を伝達。聯合ニュースによると、潘氏は「誤解があった」と釈明した。支援者は潘氏の説明について「声明は(日韓)両国の解決への努力を歓迎したもので、合意内容を歓迎したものではないとの趣旨だった」と語った。
日韓合意で安倍晋三首相は朴槿恵大統領に電話で元慰安婦への「おわびと反省」の気持ちを表明したが、元慰安婦や支援団体は「公式謝罪ではない」として不満を強めている。(共同)
2016年3月12日18時12分 朝日
潘事務総長、元慰安婦と初面会 国連本部
国連の潘基文(パンギムン)事務総長は11日、米ニューヨークの国連本部で、旧日本軍の「慰安婦」だった韓国人女性、吉元玉(キルウォノク)さんと面会し、「苦しみと痛みに同情します。被害者の声を聞くことは極めて重要です」との談話を発表した。2007年の就任以来、潘氏と元慰安婦の面会は初めて。
面会は、冒頭のみが報道陣に公開された。面会は「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会」(挺対協)の要望で実現したといい、挺対協の尹美香(ユンミヒャン)さんらも同席した。
潘氏は談話で、慰安婦問題に関する日韓合意について「誠実に履行されることを希望する。被害者を中心に、包括的な解決に向けた対話を続けるよう全ての関係者に求める」と述べた。
面会後、報道陣の取材に応じた尹さんによると、潘氏が日韓合意の直後に歓迎する声明を出したことへの遺憾の意を伝え、「被害者重視の合意ではない」などと指摘したという。車いすの吉さんは「来て良かったです」と短く話した。(ニューヨーク=金成隆一)
(2016/03/12 14:30)ANN 動画:http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000070207.html
人権尊重した履行を…国連事務総長が元慰安婦と面会
国連の潘基文事務総長が元慰安婦の女性らと面会し、日本と韓国の慰安婦合意について「人権を尊重した方向で履行されることを望む」と述べました。
潘氏は11日、国連本部で韓国人の元慰安婦の女性らと会い、「皆さんの勇気に対し、深い謝意と敬意を示します」と話しました。去年12月の慰安婦問題を巡る日韓の合意については「被害者が不在のまま決められた」と訴える声もあり、合意を歓迎した潘氏への批判も上がっていました。潘氏は今回の面会について、韓国政府から要請があったと明かし、日韓の合意について「国連憲章の掲げる人権を尊重した方向でしっかり履行されることを望む」と注文を付けました。国連によりますと、潘氏が国連事務総長の立場として元慰安婦の女性に会うのは初めてです。
2016年03月14日07時28分 中央日報/中央日報日本語版
慰安婦被害者に会った潘基文国連事務総長「韓日合意歓迎声明、誤解あった」
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長が韓国・日本政府の慰安婦問題合意に対する自分の歓迎の立場に関して誤解があったと釈明した。11日(現地時間)にニューヨーク国連本部で旧日本軍慰安婦被害者の吉元玉(キル・ウォンオク)さん(89)に会った席でだ。潘氏が事務総長として慰安婦被害者に会ったのは初めて。
面談は、韓日政府の合意に対して潘総長が歓迎声明を出したことなどに対し、慰安婦被害者が反発する状況で行われた。同席した尹美香(ユン・ミヒャン)韓国挺身隊問題対策協議会常任代表は「潘総長が『被害者が生きている時に問題を解決しようとする政府の努力に対して評価をしたものだが、誤解があったようだ』と延べた」と伝えた。挺身隊対策協は直後の報道資料を通じて、「(世界各所の問題解決過程で)発展があるたびに歓迎を表す国連の声明発表の一環であり、誤解がないことを望むという趣旨で潘総長が説明した」と明らかにした。
面談には潘総長の夫人の柳淳沢(ユ・スンテク)氏も同席した。人権関連補佐官も多数同席させた。潘総長の報道官は「面談後、潘総長が慰安婦問題の包括的解決に向けた対話を、人権原則に基いて被害者を中心にして継続するよう関連国に促した」と明らかにした。
その間、慰安婦被害者と国連の人権機構は韓日政府間の合意が被害者中心に行われなかったという点を指摘してきた。潘総長の発言は韓日政府合意の不十分性を指摘したと解釈される。
2016.03.15 05:21 ハンギョレ
潘基文国連総長「韓日慰安婦合意内容を歓迎したわけではない」
国連本部で慰安婦ハルモニに面会し釈明
潘基文国連事務総長が11日、米ニューヨーク国連本部で日本軍慰安婦被害者のキル・ウォンオクさんに面談。潘氏が国連事務総長として慰安婦被害者会うのは初めて=連合ニュース
潘基文(パンギムン)国連事務総長が韓国と日本政府の「12・28軍慰安婦問題合意」と関連し、歓迎声明を出したことについて、誤解がある旨の説明をしたことが分かった。
潘基文総長は11日(現地時間)、米ニューヨークの国連本部で日本軍慰安婦被害者ハルモニ(お婆さん)のキル・ウォンオクさん(89)と韓国挺身隊問題対策協議会のキム・ミヒャン共同代表などに面会し、「国連は世界各地で起きる多くの問題を取りあげている」とした上で、「この過程で出てくる小さな合意であっても、国連は歓迎し奨励しており、その際に使う用語としての歓迎声明を理解していただきたい」と説明したと、ユン・ミヒャン共同代表が伝えた。「12・28合意」の内容に対する歓迎ではなかったという趣旨の釈明だ。
ユン共同代表はこの場で、「12・28合意」が国連と国際社会が確立してきた重大な人権侵害問題に対する被害者中心の解決という原則を無視したものだと再度強調しており、これに対し潘総長は共感の意を示した。潘事務総長の同日の釈明は「歓迎」発言に対する批判世論を念頭に置いた、一種の「焦点ぼかし」を図ったものと見られる。
ワシントン/イ・ヨンイン特派員
2016年03月15日15時23分 中央日報日本語版
韓国女性家族部長官「日本、慰安婦合意の誠実な履行を」
韓国女性家族部の姜恩姫(カン・ウンヒ)長官は14日(現地時間)、米国ニューヨーク国連本部で開かれた第60回国連「女性の地位に関する委員会」全体会議(CSW)で、韓日政府の旧日本軍慰安婦交渉に対して「日本政府が合意をもっと誠実に履行するように願う」と明らかにした。
韓国政府首席代表として出席した姜氏はこの日、ニューヨーク特派員団との懇談会でこのように明らかにして「ただ、我々は交渉を行っており、すでに妥結した交渉は尊重すべきだとの考えに変わりはない」と伝えた。
姜氏は「うまくいった交渉か、そうではない交渉かという論争はあるものの、被害女性の生存時間を現実的にみる必要がある」としながら「ことしに入り2人が亡くなった」と指摘した。
慰安婦被害女性の努力についても「おばあさん方がこれまで厳しい道を歩んで来られ、その結果として交渉も行われた」としながら「おばあさん方の努力がなければこのような交渉も容易ではなかった」と強調した。
2016/03/15 09:55 聯合ニュース
韓国女性相 日本に慰安婦合意の誠実な履行求める
【ニューヨーク聯合ニュース】韓国女性家族部の姜恩姫(カン・ウンヒ)長官は14日(米東部時間)、日本政府に対し昨年末の慰安婦問題に関する合意の誠実な履行を求めた。
女性家族部の姜長官(資料写真)=(聯合ニュース)
国連「女性の地位に関する委員会」の韓国政府代表として米ニューヨークを訪れている姜長官はこの日、韓国メディアとの懇談会を行い、慰安婦合意について「われわれが交渉を行っており、すでに妥結した交渉は尊重すべきだとの考えに変わりはない」と話した。その上で、日本についても言及した。合意に対する評価が分かれていることに関しては「被害女性の生存時間を現実的にみる必要がある。今年に入ってからも2人が亡くなった」と指摘した。
2016年3月15日 08時00分 毎日
日韓局長協議 月内開催で調整…慰安婦問題など議論
日韓両政府は14日、月内に外務省局長協議をソウルで開く調整に入った。政府関係者が明らかにした。昨年末に「最終的かつ不可逆的」な解決で合意した慰安婦問題の進め方や、首脳外交について議論する見通しだ。
韓国側は10日付で、日韓関係を担当する外務省東北アジア局長が李相徳(イ・サンドク)氏から鄭炳元(チョン・ビョンウォン)氏に交代した。局長協議には外務省の石兼公博アジア大洋州局長と鄭氏が出席する。協議は昨年12月にソウルで開催されて以来。 日米韓3カ国は今月末にワシントンで開かれる核安全保障サミットに合わせ、首脳会談の開催を検討している。北朝鮮の核・ミサイル問題が主要議題で、事前調整のため早期の協議開催が必要と判断した。【小田中大】
2016年3月13日 16時56分 2016/03/14付 西日本新聞朝刊
3年間のソウル勤務を終え、3月初めに帰国した
3年間のソウル勤務を終え、3月初めに帰国した。久しぶりに会う先輩や同僚記者に「韓国の反日感情はどうなの」と聞かれ、今更ながら隣国の実像を伝えきれなかったことを痛感させられる。 例えば従軍慰安婦問題。ソウルでは、昨年末の日韓合意に反発する市民団体が毎週集会を開いている。団体代表らの対日批判は厳しく、それを記事にすることが多いのだが、集まっている学生たちの雰囲気はちょっと違う。
学生たちは集会後、元慰安婦の女性たちと腕を組み、笑顔で記念撮影をする。多くは過酷な経験をしたおばあさんに寄り添い、悲劇が繰り返されないことを願う人たちで、感情むき出しの反日運動イメージとの落差は大きい。
広島や長崎の被爆者に心を寄せ、反核運動に共感する日本人が必ずしも「反米」ではないのと似ている。お互いを分かっているようで分かっていない。それが日韓関係なのだと思う。 (植田祐一)
2016年3月11日13時50分 朝日
元慰安婦の支援団体、外相に国連委の勧告受け入れ要請
元慰安婦の支援団体「日本軍『慰安婦』問題解決全国行動」は10日、日本政府に国連女子差別撤廃委員会の勧告を受け入れるよう求める岸田文雄外相あての要請書を外務省に提出した。
委員会は、慰安婦問題をめぐる日韓合意について「被害者中心のアプローチが十分にとられていない」と指摘。「他国の被害者に対して国際人権法上の責務を果たしていない」と述べたことについて、支援団体は「国連人権機関の審査で、慰安婦問題が解決していないと示されたことは意味が大きい」としている。
要請書では、韓国や他国で被害を受けた女性らの被害回復に対する権利を保障するよう要請した委員会の見解を受け入れるよう日本政府に求めている。また、岸田外相が8日、最終見解について「国際社会の受け止めとはかけ離れている」と発言したことに対し、「国際人権基準を理解しない日本政府の判断こそ、国際社会の認識とかけ離れている」と批判した。
2016.03.12 08:24 ハンギョレ
不可逆的な韓日慰安婦合意に価値はない 世界的公論化は不可避
在独の韓国・日本人団体、現地人を招請 ベルリンで「慰安婦合意」懇談会
3月3日ベルリンで開かれた「慰安婦合意」懇談会 =ハン・ジュヨン通信員//ハンギョレ新聞社
東ドイツ民主化運動の中心地だったベルリンのプレンツラウアーベルク地区にあるシオン教会近くの小空間「テンクアリウム」。今月3日、ここで意義深い行事が開かれた。 コリア協議会、在独日本女性会、ドイツ日本平和フォーラムが40人余りのドイツ現地の団体およびドイツのジャーナリストを招いて、昨年韓国と日本の政府間でなされた「慰安婦合意」問題を語る懇談会だった。 コリア協議会のハン・ジョンファ代表、日本の朝日新聞で写真記者として働き、その後「ナヌムの家」で3年間共に生活した矢嶋宰氏、慰安婦問題で謝罪を要求し日本大使館前でデモを行う在独日本女性会代表の梶村道子氏、ドイツで過去の問題の清算活動をしている「記憶、責任、未来財団」顧問のウタ・ゲルラント氏(マイクを持っている人)が討論に参加した。
在独日本女性会の代表である梶村道子氏は、日本が真の謝罪をしない理由について「第2次大戦以後、日本は自らを犠牲者としてのみ規定したため」と指摘した。 「記憶、責任、未来財団」顧問のゲルラント氏は、戦勝国であり日本の友邦である米国が日本の過去清算に関心を見せなかったことを、日本の抵抗運動が自国社会を変えられなかった原因として指摘した。
「記憶、責任、未来財団」はドイツの過去清算のために2000年にドイツ政府と企業が共同で設立した財団だ。 東ヨーロッパ強制徴用被害者を探し出し損害賠償金を支給する活動をしている。 ゲルラント顧問は、昨年韓国と日本を行き来して慰安婦問題に関するシンポジウム講演と討論に参加したことがある。 「和解を成し遂げるにはどんな努力が必要だろうか」という司会者の質問に対して彼女は「慰安婦犠牲者はより多くの共感、連帯、また歴史的事実に対する公式的認定を必要としている。 和解はできるかもしれないし、できないかもしれない。 和解を人為的に作り出すことはできず、互いに強要できないことだ。 今日のこちらの小さな動きは、お互いを本当に理解しようとする態度だ。 韓国人、日本人の別を越えて人権について同じ目的を追求する人々の努力が希望の兆し」と話した。
彼女は行事の後「性の問題は難しく公論化されにくい。 そのために第2次大戦当時のヨーロッパにおける性的奴隷と関連した戦争犯罪もすべては明らかになっていない。 祖父たちが東ヨーロッパで犯した戦争犯罪は、まだ推測として残されたままになっている。 ところで、90年代に韓国慰安婦被害者たちはカミングアウトして連帯し自ら強くなった。 不都合な歴史的事実が世の中に明らかにされ、女性の人権に対する問題意識が高まった」と話した。
「記憶、責任、未来財団」のギュンター・ザートホフ代表は「討論を聴いて不可逆的合意がどれほど無価値なものかを深く考えた。 この問題は世界的に再びイシュー化される素地が大きい」と所感を明らかにした。ベルリン/ハン・ジュヨン通信員
2016 年 3 月 16 日 18:53 時事
沖縄戦被害、国の責任認めず=「不合理な差別ない」?民間被災者ら敗訴・那覇地裁
太平洋戦争末期の沖縄戦で、犠牲になった住民の遺族ら79人が国を相手取り、補償を怠ったのは違法として1人1100万円の損害賠償と謝罪を求めた集団訴訟の判決が16日、那覇地裁であった。鈴木博裁判長は「明治憲法下では公権力の行使について、国に賠償責任を認める法律はなかった」などと述べ、住民ら原告の請求を棄却した。住民側は控訴する方針。 沖縄戦の被害をめぐり、住民が国に賠償を求めた訴訟の判決は初めて。
判決後、記者会見した瑞慶山茂弁護団長は「沖縄戦の被害と真正面から向き合ってほしかった。極めて不当な判決だ」と批判。原告団長の野里千恵子さん(79)も「このような結果は信じがたい。心ある判決を下してほしかった」と声を震わせた。 原告側は、旧日本軍が米軍の攻撃を容易に予見できた都市部の那覇市首里に司令部を構築したことなどを挙げ、「国が国民を保護する義務に違反した」と主張。新たな救済法を長期間にわたり制定せず放置したのは違法だと訴えていた。
判決は「戦後補償に関する立法措置は立法府に広範な裁量が認められる」と指摘。その上で、「軍人軍属に沖縄戦の戦後補償がされる一方、一般民間戦争被害者に補償がされていないことは不合理な差別とまでは認められない」と判示した。
沖縄戦の民間被災者をめぐっては、国は戦傷病者戦没者遺族等援護法(援護法)に基づき、軍に壕(ごう)を提供したり、物資を運んだりするなどした住民を「戦闘参加者」として、補償対象にしてきた。しかし、訴状によると、4万人近い住民が同法の適用外になっている。
毎日新聞2016年3月17日 東京朝刊
被害、賠償認めず 立法府に判断委ねる 那覇地裁判決
太平洋戦争末期の沖縄戦で家族を亡くしたり、負傷したりするなどの被害を受けた79人が、国に1人当たり1100万円の賠償と謝罪を求めた訴訟の判決で、那覇地裁は16日、請求を棄却した。鈴木博裁判長は「戦時中の明治憲法の下では国に賠償責任を認める法律は存在せず、賠償などを求めることはできない」と述べた。全面敗訴の内容で、原告側は29日に控訴する方針。
訴訟で原告側は「旧日本軍は住民の生命を保護する義務があったのに、住宅地に陣地を構えて住民を戦闘行為に巻き込み、避難していた壕(ごう)から追い出すなどして多数の死傷者を出した」とし、民法上の不法行為に当たると訴えた。
これについて判決は、戦時中の行為には1947年施行の国家賠償法は適用されないなどとした上で「民法の不法行為を根拠に、現行憲法施行前の行為について国に賠償や謝罪を求めることはできない」と退けた。
一方、戦後も補償などの民間被害者の救済措置を怠ったとの主張には、「被害者は多数に上り、財政事情という制約がある中、誰にいかなる内容の補償を行うべきかは政策的な判断であり、立法府に委ねられるべき事柄だ」と述べた。
原告側は「軍人・軍属が補償を受けているのに、住民に十分な救済措置がないのは憲法が定める法の下の平等に反する」とも訴えたが、判決は「一般民間戦争被害者に補償がされていないのは不合理な差別とまでは認められない」とした。 瑞慶山(ずけやま)茂弁護団長は「基本的人権の最後のとりでであるべき裁判所が責務を放棄した」と判決を批判した。原告は沖縄県内外の46?93歳の79人。沖縄戦民間被害者への損害賠償を巡る判決は初めて。東京大空襲や大阪大空襲の被害者も国家賠償を求める集団訴訟を起こしたが、最高裁で敗訴が確定している。【佐藤敬一、川上珠実】
3月16日 15時08分 NHK 動画:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160316/k10010445291000.html
沖縄戦訴訟 住民の訴え退ける判決
太平洋戦争末期の昭和20年に激しい地上戦が行われた沖縄戦で被害を受けたとして、沖縄県などの住民79人が国に賠償を求めた裁判で、那覇地方裁判所は「戦時中の明治憲法の下では国の責任を認める法律がなく、賠償を求めることができない」と指摘して、訴えを退ける判決を言い渡しました。
太平洋戦争末期の昭和20年に行われた沖縄戦について、沖縄県などの住民79人は、平成24年、砲弾を受けて負傷したり家族が死亡したりしたのは、国が住民を保護する義務を怠ったのが原因だとして、国に賠償などを求める訴えを起こしました。
住民側は、3か月以上にわたり地上戦が続けられた結果、日米両軍の兵士を上回る沖縄県民が犠牲になるなど過去に例のない被害を受けたと主張したのに対し、国側は、被害から20年以上経過して賠償を請求できる権利が消滅しているなどと反論していました。
16日の判決で、那覇地方裁判所の鈴木博裁判長は「戦時中の明治憲法の下では国の責任を認める法律がなく、賠償を求めることができない」と指摘しました。そのうえで、「先の大戦にいやおうなく巻き込まれた被害者は多数に上り、財政事情がある中で誰に補償を行うのかを決めるのは国会に委ねられるべき事柄で、一般の戦争被害者に補償されていないことは不合理な差別とは認められない」として訴えを退けました。
弁護団長「歴史的に悪い判決」
判決について、原告の弁護団長の瑞慶山茂弁護士は「住民の主張は理由がないとしてすべて棄却された。判決文は、国の主張をそのまま書き写したような内容で、人権を擁護すべき裁判所が出した歴史的に悪い判決だ」と述べました。
戦後補償の対象は軍人・軍属
先の大戦で負傷した人や亡くなった人の遺族に対し、国は法律に基づき障害年金や遺族年金などを支給しています。その対象は、軍人や旧日本軍によって戦地で雇用されていた軍属、それに旧日本軍に食料の提供などの協力をしていた戦闘参加者などの準軍属に限られ、民間人は対象になっていません。
背景にあるのが、いわゆる「受忍論」という考え方で、昭和55年に当時の厚生大臣の諮問機関が「戦争という非常事態の下で、国民が何らかの犠牲を余儀なくされたとしても、すべての国民がひとしく受忍しなければならない」などとする意見をまとめ、国は民間人には戦争被害の補償をしていません。
ただ、例外的に、国が民間人への救済を行っているケースもあります。広島と長崎に投下された原爆については、「放射線による健康被害は『特別の犠牲』だ」などとして、被爆者に対し、健康管理手当や医療費などが支給されています。また、中国残留孤児については「戦後の混乱の中で残留を余儀なくされ、高度経済成長の恩恵も受けられなかった」などとして、年金などを支給しています。
2016年3月17日 05:00 沖縄タイムス
社説 [沖縄戦国賠訴訟] 被害に背向けた判決だ
沖縄戦で負傷したり、家族を亡くしたりした住民や遺族79人が国に謝罪と損害賠償を求めた訴訟の判決で、那覇地裁は原告の請求を棄却した。
沖縄戦の実態を踏まえることなく、被害者の苦しみに背を向ける冷たい判決である。
平均年齢80歳近い原告らが最後の力を振り絞り「国や日本軍は国民を保護する義務を怠り、戦闘で住民に損害を与えた」と起こした裁判である。
争点となったのは国民保護義務違反という国の不法行為責任。地裁は「戦時中、国の権力行使について賠償責任を認める法律はなかった」と国家無答責の法理によりこれを否定した。日本軍の加害行為、住民の被害事実といった沖縄戦の特殊性には踏み込まず、一般論に終始した内容だ。
戦争被害で国は、元軍人や軍属に年金を支払うなど手厚い補償を敷いている。 原告が訴えたのは「人の命に尊い命とそうでない命があるのか。救済が不十分なのは憲法の平等原則に反する」との立法の不作為でもあった。 しかし判決は「戦争被害者は多数に上り、誰に対して補償をするかは立法府に委ねられるべき。軍の指揮命令下で被害を受けた軍人らへの補償は不合理ではない」と訴えを退けた。
最高裁で原告敗訴が確定したものの被害を認定した東京大空襲国賠訴訟などと比べ「判決は後退している」(瑞慶山茂弁護団長)と指摘されるように、救済の扉のノブに手をかけることもなく、国の姿勢をことごとく追認するものである。
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各地の空襲訴訟も同様に民間人への損害賠償を求めるものだが、地上戦の舞台となった沖縄と本土では戦争体験の質がまったく異なっている。
本土決戦の時間を稼ぐための「捨て石」となった沖縄戦の特徴は、軍人よりも住民犠牲が多かったことだ。 「軍官民共生共死の一体化」の方針の下、日本軍は住民を戦場へとかり出し、捕虜になることを許さなかった。陣地に使うからと住民をガマから追い出したり、スパイ容疑で虐殺したり、「集団自決(強制集団死)」に追い込むなど住民を守るという視点が決定的に欠けていたのである。
その中には戦闘参加者として援護法の適用を受けたケースがある一方、沖縄・民間戦争被害者の会の調査によると適用を受けずに亡くなった人が6万7千人に上っている。 判決は「実際に戦地に赴いた」特殊性を軍人・軍属への補償の理由に挙げるが、沖縄では多くの住民が戦地体験を強いられたようなものだ。
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今回の裁判の過程で、原告の約半数が心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えていることが明らかになった。
戦争で肉親を失い、けがを負い、戦後はトラウマに苦しんでいるというのに、誰も責任をとらないのはおかしい。 住民らは控訴する方針である。原告は高齢化し、地裁判決までの3年半の間に6人の方が亡くなった。 司法には人権保障の最後の砦(とりで)としての役割を、国会には救済の道を開く新たな制度の創設を求めたい。
2016年3月17日 06:02 琉球新報
<社説>沖縄戦訴訟棄却 国民全てに平等な補償を
全ての国民が法の下に平等であるという憲法14条がむなしく感じられる。沖縄戦で被害を受けた民間人や遺族ら79人が国に謝罪と損害賠償を求めた「沖縄戦被害国家賠償訴訟」で、那覇地裁(鈴木博裁判長)は原告の訴えを棄却した。
判決は、国家賠償法施行前だったため、国が賠償責任を負わないとする「国家無答責の法理」によって遺族らの求めを退けた。
判決はさらに、旧軍人や軍属が「戦傷病者戦没者遺族等援護法(援護法)」で補償されるのに対し、被告らへの補償がないことを「不合理であるということはできない」としている。
憲法14条は人種、性別、信条のほか「社会的身分」により、差別されないと規定している。「軍人・軍属」という身分によって補償の有無が決まるのは憲法の理念に照らして不条理としかいえない。
沖縄戦で被害を受けた人のうち、直接戦闘行為に加わらなかった「軍属」「準軍属」として援護法に基づく補償を受けたのは陣地構築や弾薬・患者輸送、「強制集団死」(集団自決)、スパイ嫌疑による犠牲者などとなっている。今回の訴訟の原告は米軍の爆撃などによる負傷者、旧日本軍に壕を追い出された人、近親者が戦死した人、戦争孤児などだ。
沖縄戦の特徴は「住民を巻き込んだ国内唯一の地上戦」という言葉に示される。生活の場に軍隊が土足で踏み込み、本土決戦への時間稼ぎ、捨て石とされた。国策の名の下、県民は個人の意思と関係なく、戦争に巻き込まれたのだ。
判決はそうした沖縄戦の実態に向き合おうとしていない。原告の中には、戦争当時の記憶が心の傷となり心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された人もいる。補償が不十分というだけでなく、被害は現在も続いている。
国立国会図書館がまとめた「戦後処理の残された課題」(2008年12月)によると「欧米諸国の戦争犠牲者補償制度には、『国民平等主義』と『内外人平等主義』という2つの共通する特徴がある」という。民間人と軍人・軍属、自国民と外国人の差別なく国の責任で補償するという考え方だ。
戦後70年以上、日本政府は戦争被害者の補償を差別し、裁判所もそれを追認している。これ以上放置することは許されない。政府は戦争への責任を認め、新たな補償の在り方を早急に検討すべきだ。